もくじ
【プロローグ ~英雄陣営導入~ 】

 突然、あなたの目に広がる景色が変わる。

 「いやいや、突然こんな真っ白で何もない部屋に呼び出してしまって申し訳ない」

 あなたの前に突然現れた男はそういって、非礼を詫びるように頭を下げる。

 「とはいえ、そうでもしなければ幾分……マズい状態になってしまってね」

 溜息をひとつついて。

 「詳しい話は、そうだね。……あまり時間をかけたくない。移動しながら話をしよう」

 そう言うと、何もない部屋の壁に揺らぎが現れる。
 揺らぎはやがて収束し、暗い廊下のようなものにつながっているのが分かる。

 「突然のことで、何がなんだかって思われてるのはわかってるんだ。だけど」

 「このままにしておくと、世界が根本からひっくり返ってしまうことだけは確かだ」

 そう言って、男は揺らぎから生み出されたその漆黒の回廊に一歩足を踏み入れて。
 あなたの方へ振り向いて、手を差し出す。
 招き入れるかのように。

 「まあ、なんというか、早い話が」

 「キミの力を、借りたいんだ」
【プロローグ ~暗躍~ 】

 「やれやれ……。本当に邪魔をするつもりのようですね、アールブムは」

 薄暗闇に包まれたその窓から、椅子に腰かけて外の景色を臨むひとりの少女。
 漆黒のローブと、濡羽色の御髪。
 その奥から、血のように深い朱色の瞳がのぞく。
 となりに立つのは、ひとりの青年。

 寡黙に、ただ傍に仕えるように。

 「わたしの大事な大事な"箱庭"に。あれだけの招かれざる者を土足で踏み入れさせるなんて」

 大げさに、嘆くかのように言葉を漏らす。
 その表情には、むしろ、獰猛なほどの興味を貼りつけているかのように。
 薄く、笑う。

 「……消すか? あの、白い魔法師を」

 閉じていた双眸を開いて告げる、青年。

 「いいえ……そんな必要はないわ。"おにいさま"」

 立ち上がって、その正面へ歩み寄り。
 つい――と、衣装越しに、その男の胸を撫でる。

 「アールブム自身には、わたし達と戦うような力はない。それに、多分もう遅いわ。お相手するなら、喚ばれてきた英雄たちでしょう。その力を削ぐ方が、有用だわ」

 「……お前が、そう望むのなら。機は、示してくれ」

 男は、足元の少女に触れ返しはせず。
 ただ今までと変わらぬままに、その場に留まる。

 「ええ。ええ。わかっているわ。まだ、もう少し待ちましょう?」

 その外見にそぐわぬ妖艶な笑みを浮かべて、少女は笑う。

 「もう少し熟したら、そのときは」
 「そのときは、共に参りましょう」

       ・・・・・・
 「ねえ? "プロメテウス"にいさま?」
【プロローグ ~直前の~ 】

 「さて、それじゃあもう一度。最初から説明をしよう」

 ほの暗い回廊を歩きながら、その白衣の男はタクトを振るう。
 何も見えない、足の向かう先に次々と通路ができあがっていくのが分かるだろう。

 「これからキミが辿り着くのは、アトラタン大陸。の、そう。パラレルワールド、並行世界というヤツ」

 「そこでは今まさに、のちにグランクレスト大戦、なんて呼ばれることになる大きな戦争が始まっている」

 けれど、それを指揮しているのは、キミたちの知る盟主ではない。
 そう説明される。
 そしてこのままその世界の存在を許せば、自分のあずかり知らぬところで、その世界こそが"表"になるのだと。

 「難しいと思うから色々と省くけれど。とにかく本の表紙はひとつしかないだろう? 裏表紙、なんて話はなしにしてね。それと同じで、"アトラタン大陸"という本の中で、表を向いている表紙はひとつしかないんだ。今回、キミたちが向き合うことになる"敵"は、無理やりその表紙を張り替えようとしている」

 それもちょっと見ただけじゃ分からないような方法で。
 誰にも気づかれないように、やろうとしていたのだ。

 「しかも表紙を貼り替えるのが目的じゃない。そうした後に、その"敵"が何をしようとしてるかまでは、まだ掴めていないけれど……」

 とにかく世界がひっくり返って、終わりともいかないのだ。

 「そんなわけで、無理を承知でキミみたいな英雄に声をかけたわけだ。英雄なんてタマじゃないって? まあいいよ。少なくとも、キミにはそう呼んで差し支えないだけの何かある。だから声をかけたんだからね」

 ……まあ、手数が欲しくて呼んだ存在もいるけれど。
 ※診断に登場してやられていく英雄など

 「さて、最後に注意事項をひとつ。キミたちがあっちに行っている間、元々の世界では時間は進まない。けれど、キミたち自体は変わっていく」

 事件を無事に解決したとして、元の世界にそっくりそのまま戻るわけではないのだ。

 「例えばあっちで死んだりしたら、事件が解決した瞬間元の世界でも死ぬ」
 「だから、うん。生きて戻ってきてほしい。私の所為で犠牲になる人は、出したくないからね」

 それでも戦う力はないから、キミたちに頼るしかないのだけれど。
 そう苦笑して、男は回廊の最奥……がっしり備え付けられた門を臨む。
 色のない宝玉の嵌められたタクトを振るい、その戸を開いて。

 「戻るなら、ここが最後のチャンス。まだ戻れる。無理なら、断ってほしい」
 どうする? あなたに、そう尋ねて。
 それでも、行くと言ってくれるなら。
 男は微笑んで、門戸を完全に開け終える。

 「改めて……よろしくお願いするよ。キミの力を貸してほしい」

 門の前で振り返り、あなたを導く。

 「……え、名前? あれ。そうか。ゴメンゴメン。名乗っていなかったのか。うっかりしていたよ。私は」

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